ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
ビッグバンドを聴こう6ーモダン・ジャズ・ビッグバンド2

学生バンド、社会人バンドでビッグバンドを演っている皆さんも、ソロがなくても、つねに自分が演っているのは「ジャズ」だ、ということを意識してほしい。私自身は、ビッグバンドだからとりあえず聴く……みたいなビッグバンドファンではなく、逆に、編成が小さければ小さいほど顔がほころんでくる人間なので(今、いちばん好きなのは、サックスソロとかトロンボーンソロとか……管楽器のソロアルバムですね)、よほどのことがないかぎり、「いつも演ってることにメンバーを足して編成をでかくしました」的な演奏には関心がない。マンハッタン・ジャズ・クインテットがマンハッタン・ジャズ・オーケストラになり、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズがアート・ブレイキー&スペシャルビッグバンドになり、クリフォード・ジョーダン・クインテットがクリフォード・ジョーダン・オーケストラになったとして、それがどうだというのか。マイルスが晩年クインシーのビッグバンドでちょろっと吹いたとしてもさほど意味はない。そんななかでは、先日亡くなったジョー・ザビヌルの「ブラウン・ストリート」という二枚組は、ザビヌルがウェザーで演りたかったのはこういうことだったのか、とあらためて得心するような凄まじいビッグバンド作品で、めっちゃよかった。

紙数が尽きて、壮大なジャムセッションともいえるクラーク~ボーランとか、じつはものすごくいびつなビッグバンドであるトシコ~タバキンとか、リーダーみずから自分のビッグバンドを壊しにかかっているジャコ・パス・ビッグバンドとか、イギリスで気を吐いたマイク・ウエストブルックとか、最近話題のマリー・シュナイダーとか、東京ユニオンとかニュー・ハードとか……私の大好きなバンドに触れることができなかったが、まあそういうことです(どういうことやねん!)。

次回、最終回はいよいよ、私のテリトリーであるフリージャズのビッグバンドということでおつきあいを願います。では。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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