ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
野外でのライヴ

今回は根本的な話題である。

ビッグバンドは図体が大きいので、なかなか入れるハコがなく、野外で演奏を行う機会が多くなる。「大学対抗○○ビッグバンドフェスティバル」とか「五大ビッグバンド世紀の激突!」などという催しは、野外音楽堂で行われる場合が多い。まあ、野音は借り賃が安いこともあるが、やはり二十人近い人数を室内に収容するとなると、いわゆるライヴハウスでは困難なのだ。しかし、野外には野外のむずかしさがある。以下、野外ライヴのむずかしさを箇条書きにしてみたので参考にしていただきたい。

 

1.音が散る

天井はない。上は「空」である。発した音は茫洋と散っていく。たいがいの場合、当然、PAが必要だが、いくらがんばっても音は空に吸い込まれていく。よほどの名人がオペをしないかぎり、かなりスカスカな音になることは覚悟しなければならない。客に向かって、というより、空に向かって吹いている感じでしょうか。

 

2.天候に左右される

雨が降ったら、野外ライヴはもう「おしまい」である。演奏者側に屋根があっても、客席はざんざん降り……ということがよくある。昔、「びわこバレイジャズフェスティバル」という野外フェスがあって、広い駐車場で夜通し、朝までやるイベントなのだが、途中で土砂降りになった。深夜のこととて、どこにも逃げ場所はない。雨宿り不可能なのである。豪雨なので傘や合羽などほとんど意味はない。参加者はひたすら濡れるしかない。ずーーーーーーっと雨に濡れていると、夏なのに身体が芯から冷えてくる。あれは、つらい、とか、嫌だ、とかそんなレベルを通り越して拷問だったなあ。ステージで誰がなにをやってるかなんてどうでもよくて、ひたすら「早く終わってくれ、朝になってくれ」と願ってました。以前は、ネムジャズインとかライヴ・アンダー・ザ・スカイとかマウントフジといった野外型のジャズフェスが多かったが、どれも雨には弱かった。ライヴ・アンダーの豪雨のなかでのハンコックとショーターのデュオがアルバム化されており、名演との世評が高いが、現場で聴いてた客のなかには「早く終わってくれ」と思っていたやつらもいたことだろう。これは私事だが、ある野外音楽堂でビッグバンド対抗のイベントがあって、そこはかなり広い会場なのだが、うちのバンドが出る直前に土砂降りになった。それはもう、信じられないぐらい激しい雨で、さあ、いざ演奏をはじめようとしたら、客席には誰ひとりいない。それは当然で、あんな雨のなかでは座っていることすらできないだろう。しかたなく客席を向いていたバンドを横に向け、ステージに客を上げて演奏したが、あとで客にきいたら、雨の音がうるさくてバンドの音なんかさっぱり聞こえなかったそうだ。あと、昔、テレビでどこかのプロのビッグバンドがスキーのゲレンデで演奏しているのを見たが、指はかじかむし、楽器は冷え切って鳴らないし、ピッチは下がるしで、きっとめちゃめちゃしんどいだろうな、プロはたいへんだなあ、と変なところで感心した記憶がある。

 

3.虫が来る

ある夏の夜、河原でライヴをしていたら、私の譜面台のすぐ横に照明があって、それに無数の虫が集まってきたことがあった。これはびっくりしました。譜面の音符がなんだか動くなあ、と思っていると、それは羽虫で、百匹ぐらいが私の譜面にたかっているのだ。追い払おうにも、あとからあとから来る。しまいには演奏中に口のなかに飛び込んでくるようになって、まったく演奏にならなかった。照明を消すと譜面が読めないし、あれには閉口しました。対策としては、殺虫剤を撒きまくるか、あるいは完全暗譜するか……でしょうね。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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