ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
いかにして客を集めるか

1.知り合いの知り合いに声をかける。

知り合いがツレとか彼女(彼氏)を連れて飲み会に来たとき、その知り合いに、
「今度ライヴあるんだよ。来てくれよ。客が少なくてさー、困ってるんだよ。たまにはジャズもいいぜー」
「俺、宇多田とTRFしか聴かないから」
「そんなこというなよ。宇多田の曲もやるようにバンマスに言っとくからさあ。なあ、頼むよ、○○日、あいてるだろ」
「うーん、どうしようかなあ」
(そこですかさず、知り合いのツレに向かって)「あ、ご一緒にどうですか。そうだ、ふたりで来てよ。それで、終わったらふたりで飲みにいけばいいじゃん。そうだそうだ。はい、チケット二枚渡しとくね」

2.DMを山のように送る

チラシを郵送すると高くつくので、ハガキに印刷する。これをめったやたらに知り合いに送りつける。「これは」と思う相手には、うっかりしたふりをして複数枚送るとプレッシャーになって効果的である。できれば「助けると思って来てくれ。おまえしかこんなこと頼める相手いないんだ」などという文言を肉筆で書き添えておこう。

3.チラシをいろんなところに置く

ジャズ喫茶やレコード店、スタジオなどはもちろん、駅の「ご自由にお取りください」と書いてある、求人情報誌とか旅行代理店のパンフが並べてある棚などに勝手に置こう。すぐに撤去されるけど。電話ボックスのなかに貼り付けると罰せられるので注意。駅前で通行人に手渡すのもいいかも。すぐに捨てられると思うけど。

4.インターネットを活用する

知人の掲示板、ブログなどはもとより、いろんな音楽系の掲示板にライヴ情報をどしどし書き込む。全然話題と関係なくて、ウザがられるかもしれないが、そこはたとえば、
〈うちのすぐ裏の河原では桜が満開です。きのうお花見に行ってきましたが、天気も良くて、ほんとに楽しかった〉
〈それは楽しそうですね。ところで、お花見といえば、うちのバンド、今度またライヴがあるんですが、○月○日に○○ホールで○時からなんです。ぜひぜひぜひぜひ来てください。演奏曲目は……〉

このように書けば大丈夫。

5.マスコミを利用する

ジャズ雑誌のコンサート情報欄はアマチュアバンドの情報も載せてくれる場合があるのでしつこくファックスしよう。新聞なども地元のアマチュアの情報をとりあげてくれる場合がある。あと、ラジオの投稿ハガキにリクエスト曲だけでなくライヴのPRを書くとか、テレビ等の情報番組への依頼に「○月○日○○ホールで○○ビッグバンドというバンドのコンサートがあるらしいのですが、そのメンバーのひとりがじつはアラブの石油王の息子だという噂について検証してください」とか書くのも効果的かも。

6.宣伝カーを借りてアピールする

選挙で使う宣伝カーのうえにメンバーが乗って、演奏しながら街を走る。恥ずかしいことはない。ニューオリンズではよくやられていたことだし、トロンボーンのゲイトテイル奏法はそこから生まれたという。まあ、道交法違反で捕まるかもしれないけど。そうそう、ブルース・ブラザーズもやってたよね。

というようなことは……あまりしないほうがいいかもしれない。やっぱり地道に、友だちを拝み倒すのがいちばんかもね。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
so-net.ne.jp/fuetako/
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