ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
バンド内でもめごとがあったとき

そういった音楽上のもめごとならまだしも、これは最低の話だが、もっと困るのが、女性メンバーをめぐって、
ほかのメンバーが対立する、というやつだ。

たいがい、当の女性は男性と付き合う意志はなく、単にサックスが吹きたくてそのバンドにいるだけだったりするのだが、その女性がどちらともおつきあいしません宣言をしたところでバンドの空気は最悪となる。

あと、バンドメンバー間で金銭の貸し借りをして、それを返す返さないでもめて気まずくなったり、とか、ひとりめちゃくちゃ足の臭いやつがいる、とか、衣装が気に食わん、とか、打ち上げがいつも中華料理屋だが、俺は和食が食いたいんだ、とか、とにかくどんなことでももめごとの種になる。さて、あなたがバンマスのバンドでメンバー間に不和がもちあがったとしよう。あなたはなんとかそのトラブルをうまく解決しなければならない。バンドメンバーの間に波風が立っていては、ぜったいに良い演奏などできるはずがないからである。もめているメンバーはどちらもバンドには必要な人材だ。コンサートは間近に迫ってきている。そんなときどうするべきだろうか……。

まず、トラブっているメンバーを呼び、それぞれの言い分をじっくりと聞く。そのうえで話しはじめる。
「人間十人寄れば気は十色というけれど、これだけの人数がそろっているんだ。合う相手も合わない相手もいる。多少は気に食わないことや衝突もあるだろう。だが、みんながみんな同じような人間だったら、まるでおもしろくないだろ。それぞれがちがっているからこそビッグバンドはおもしろいんだ。バンドを結成したときの初心に戻ろう。楽しく演奏するために結成したのを忘れたのか。まず、互いに相手を認め合おうじゃないか。多少の不満はぐっと我慢して、演奏に集中するよう努力する。いい演奏ができれば、それが最高。不満なんか吹っ飛んでしまうさ。俺たちはひとりひとりが世界にひとつだけの花なんだ。さあ、目と目を見つめ合って、笑顔で握手するんだ……」

こういう説教くさい方法はまちがいなく失敗するので、やめたほうがいいですよ(殴られるかもしれない)。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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