ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
アドリブをいかに学ぶか

水族館や魚屋に行って、アドリブをしたいんですけど、教えてくれませんかー、とイカにたずねても教えてもらえませんからそのつもりで。

そもそもビッグバンドといってもビッグバンド「ジャズ」なんだから、アドリブというものはかかせない。だいたいにおいて、ビッグバンドのソロはテナーサックスが担当することがいちばん多いだろう。つぎにトランペット、そのあとトロンボーン、アルトサックス、ピアノ……そんな感じだろうか。アマチュアバンドの場合、単独コンサートならともかく、通常は演奏曲数もかぎられているわけで、そういうなかでバリトンサックスやベースなどのパートにソロがまわってくることはほとんどないだろうが、だからといってアドリブの勉強をしなくていいということではない。たとえば、カウント・ベイシーのバリトンを長年吹いていたチャーリー・フォークスなんかもたまーーーーーーにフィーチュア曲があると圧倒的な音色、音量ですばらしい演奏をした。能ある鷹は爪を隠す、というか、社会人バンドや学生バンドのバリサクのひとたちも、

「フルバンのバリサクって、ソロとかないし、移動のときぜったい車いるし、いやなんだよなー」

などと腐らずに、バンマスやコンマスにしつこく、

「ソロをさせろ」

とアピールしてみてはいかがだろうか。もちろん、ビッグバンドにおいては、ソロではなく、アンサンブルやテーマの吹き方でアピールすることもできる。なんだかバリサクの話ばかりで恐縮だが、エリントンにおけるハリー・カーネイや、ギル・エヴァンス・オーケストラで「彼女のドレスはオレンジ色」を演奏するときのハワード・ジョンソンのぶっちぎるようなテーマの吹き方を聴いているだけで、その圧倒的な存在感が伝わってくるが、その存在感もやはりソリストとしての自信が裏付けとなっていると思われる。

ビッグバンドのバリサクの諸君、ソロを吹こうではないか。それも、がんがん行こうではないか。毎曲テナーソロがあるバンドは珍しくない。メインソリストであるテナー吹きにはソロの吹けるやつを座らせるのがふつうだからだ。もし、フルバンドのコンサートがあって、毎曲バリサクソロがあったら、客は驚くでー!諸君、メインソリストの地位をテナーやトランペットから奪ってみようではないか!と、なにをアジっているのか自分でもよくわからないが、では、どのようにすればアドリブというのはできるようになるのだろうか。答は簡単である。人前でどんどん吹くこと、これに尽きます。だって、いくらコピーをたくさんしてひとりで家でそれを完璧に吹けるようにしたって、それをそのまま吹いたらアドリブにならないわけで、とにかく他人のまえで吹くことである。それも、できれば「なーんにも考えずに」やること。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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