ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
曲の選び方

学生がはじめてロックバンドを組んだとき、ボーカルが「ストーンズやりたい」、ベースが「ヘビメタしかねーよ」、キーボードが「プログレがいいと思う」、ギターが「俺、寺内タケシがいい」、ドラムが「ロックってよくわからない。ルパン三世のテーマとかどう?」と言い出したらどうなるか。わけのわからない、めちゃめちゃなバンドになってしまう。かくいう私も、高校生のときにはじめて組んだバンドでは、サザンオールスターズの曲、オリジナルのフォークソング、オリジナルの演歌、マイルスの「ソー・ファット」、スティービー・ワンダーの「イズント・シー・ラヴリー」、ヒカシューの曲、ゴジラの曲、でたらめな即興……などを演っていた。とにかく「バンドやりたいやつ集合!」という、シンプルなポリシーではじめたので、フォーク指向のもの、ポップス指向のもの、ジャズ指向のもの、前衛指向のもの……など、好みのちがうものが集まってしまい、しかも、楽器を満足に弾けるもの、コードなどの楽理を知っているものがひとりもいなかったため、とりあえず「なんでもええからやってみよ」的に、やりたい曲を全部やったのである。今でも、そのバンドの生録テープが残っているが、聴いてみると、ドラムとサックスが「南洋音楽風」の即興をしている後ろで、ひとりがフォークギターをじゃかじゃかかき鳴らしながら、

「愛が~どうたらこうたら~」

と熱唱し、キーボードはずーーーっとEmのコードだけを弾き続けているときに、ベースが「イズント・シー・ラヴリー」のパターンを弾くと、全員で突然、

「イズ~ントシ~ラ~ヴリ~」

と歌い出す……というわけのわからない演奏が延々と展開している。これはやはり、選曲をきちんとやっていないからこういうことになるのである。

ビッグバンドにとっても、選曲はかなりの大事である。学生バンドだと、三曲ぐらいを半年もかけて練習するわけだが、選曲次第でたいしたことのないバンドがすごく上手く聞こえたり、そこそこ実力のあるバンドがめちゃめちゃ下手に聞こえたりする。また、バンドカラーというものを考えると、いい曲だからといってなんでもかんでもやればいいというもんでもない。一曲目がギル・エヴァンスで二曲目が茶色の小瓶で三曲目が聖者の行進で四曲目がハービー・ハンコックっておかしくないっすか? たとえばアトミック・ジャズ・オーケストラという社会人バンドはベイシーの曲しかしないことで有名だが、それも、五十年代の曲しかやらないのである。ということはつまり、世間によく出回っているサミー・ネスティコの譜面は使わないわけで、そういう頑固なこだわりがすなわちバンドカラーにつながるのだ。しかし、多くのバンドはそうではなく、ベイシーもやればバディ・リッチもグレン・ミラーもサド・メルもウディ・ハーマンもボブ・ミンツァーもドラえもんも踊るポンポコリンも千と千尋も演歌もなんでもやる。器用なのはいいことだし、主な出演場所がどこか、という問題もあるだろうし、いろんな曲に挑戦したいという気持ちもわかるが、それではよそのバンドとの差別化ができない。できれば、「ここってどんなバンド?」「ああ、そこは○○なバンドだよ」と一言で説明できるぐらいのバンドカラーがほしいではないか。そこで、選曲が重要なポイントになるのである。どういう基準で曲を選ぶべきかを列記しよう。まず、次の四つはかならず守ってほしい。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
so-net.ne.jp/fuetako/
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