ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
ソロイストかアンサンブルか

アマチュアビッグバンドを結成するときに、ソロイストを選ぶか、アンサンブルのうまいやつを選ぶか、という問題がある。いちおうビッグバンド「ジャズ」なので、アドリブソロは不可欠だ。なかには、コピーソロといって、レコードのソロをコピーして吹く場合もあるが、学生バンドならともかく、社会人バンドではこれはかなり恥ずかしい。しかし、ビッグバンドというのは特殊な世界であって、コンボ(小編成のバンド)ならば、全員それなりにソロができて当たり前だが、ビッグバンドではソロの吹けないプレイヤーも許される。たとえば、リードトランペットやハイノートヒッターの場合、ソロを吹かせるといまいちというときもあり、プロでもそういうひとがいる。リードラッパは、残りのメンバーに「黙って俺についてこい」と言いながら、リズム完璧、ノリ完璧、アーティキュレイション完璧に譜面をこなし、それによってバンド全体のスイング感が形成されるわけで、それもまたビッグバンドジャズへの関わりかただと思う。また、ハイノートヒッターは、ここぞというときに超高音をびゅうびゅう吹くことで聴衆が興奮のるつぼになり、バンドも高揚する、というわけで、これまたビッグバンドをジャズたらしめているのである。ときどき社会人バンドをブラバンの延長のように考え、
「このあたりにいいブラスバンドがないので、入りました~」

などといって、何年も在籍しているのに、
「いえ、私はソロなんてとてもとても」

と、一回もソロをとったことがないようなひとがいる。それはそれでそれなりに楽しいとは思うが、やはりジャズなので、ソロを練習したほうがより楽しいと思う。最初はコピーでいいから、だんだんむちゃくちゃでもいいからアドリブができるようになれば、きっとより一層ビッグバンドが好きになるはずだ。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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