ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
ビッグバンドをいかに維持するか

ビッグバンドというのは、ようするに「大きなバンド」である。大きなバンドといっても、ドラムが高さ5メートルもある、とか、ウッドベースが天井を突き破っている、とか、そういう意味ではない。人数が多いバンドのことで、たいがいジャズを演奏する。かつてはめちゃめちゃ流行ったもので、スウィング時代はデューク・エリントンとカウント・ベイシーの二大看板を筆頭に、ベニー・グッドマンにグレン・ミラー、ライオネル・ハンプトンらがスタープレイヤーをずらりと揃えて全盛を誇り、モダンジャズ期においてもサド・ジョーンズ・アンド・メル・ルイス、ウディ・ハーマン、スタン・ケントン、バディ・リッチ、最近ではギル・エヴァンスや秋吉敏子・アンド・ルー・タバキンなどが名高い。前衛ジャズのほうでも、グローブ・ユニティやウィーン・アート・オーケストラ、サン・ラ、イタリアン・インスタビレ・オーケストラ……枚挙にいとまがないほどだ。日本に目を転じても、老舗のシャープス・アンド・フラッツやブルー・コーツ、ニュー・ハードなど有名どころがたくさんある。

ところが、現在はビッグバンド受難の時代であるという。大きな稼ぎ場だったテレビの歌番組は激減したし、最近の若い歌い手はたいがい自分のバックバンドをつれているし、人数の関係で出演できるハコもかぎられているし、楽旅するといってもたいへんだし……。ようするに大勢のメンバーに給料を保証することがむずかしいのだ。このようにプロでもビッグバンドを維持するのはなかなかたいへんなのだが、いわんやアマチュアバンドにおいてをや。

アマチュアビッグバンドの維持に関する悩みは、プロのそれとは微妙に異なっている。ビッグバンドを結成するのはじつは簡単である。社会人バンドの場合を例にあげよう。数人のアマチュアミュージシャンが居酒屋で飲みながら、学生時代の音楽談義に花を咲かせる。
「久々にビッグバンドやりたいなあ」
「そやなあ」
「やろか」

これで結成である。彼らがキー・メンバーとなる。あとは、足りないセクションを補充すればよい。最初は、トランペット1、トロンボーン1、サックス2ぐらいでもなんとかそれっぽい音はでるものである。そのうちに、各メンバーがそれぞれの知りあいに声をかけ、ざっとした人数が集まったら、あとは練習だ。日曜日の午後、練習スタジオに集合。一回目の練習には、それなりのメンバーがそろうだろう。譜面は、学生時代に演ったことのあるサミー・ネスティコのベイシー・ナンバー。せーの、で音をだしてみると、これがなかなか楽しい。二時間ほど譜面と格闘すると、それなりにまとまってきて、おお、これなら毎週練習すればちゃんとしたバンドになるぞ、という感じになる。終わってからみんなで飲みに行く。肴は、たったいま終えたばかりの練習について。ハイノートのでるトランペットを補強して……やっぱりバリサク(バリトン・サックス)は欲しいよな……ボントロの○○さんって転勤でこっちに帰ってきてるはずだから誘ってみようか……まずはバンド名決めなくちゃ……などなど。そして、
「じゃあまた、次回の練習のときに」
と言いあっておひらきとなる。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
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