地下のお店、と聞いていたので迷わずらせん階段を降りる。…なんていうと、またもやタバコの煙、茶色くくすんだ壁、黄ばんだまま飾られているLPジャケット…みたいなイメージもしちゃうわけですが。ところが広いんですね、この階段が。階段、というより、階段のあるホールを地下に向かうという感じで。ビル自体も新しいようで、とても清潔で明るい。
地下1階にしては長い階段だなあと思いながらドアを開けると、いや、これはなるほど。この高い天井はとても地下とは思えない。2階分くらいの高さがないと、この広々とした空間はできないんじゃなかろうか。 やや細長い店内は、まず左手にカウンター、右手からはテーブル席が奥に向かって伸びている。奥にステージがしつらえられていて、少し高さがあるせいでテーブル席に座っていてもとても見やすそうだ。ここではなんとビッグバンドのライブが聴けるという事前情報もあり、ステージが広々しているのも納得である。 いや、こりゃあいいお店だなあ、空気もキレイだ。
この「ジャズ暖房機」、いやいや暖房してどうする、「ジャズ探訪記」、もいつの間にか足かけ5年。直接・間接にいろんなお店の情報に触れることになって、そんな中で、いい店かどうかを嗅ぎ分けるカンのようなものが多少は身についたような気もするんですね。そのカンで判断するなら、ここはまちがいない、内なる声がそうささやいた気がして…。 五月としてもずいぶん暑かったこの日、ハハハ、ビールなんかお願いしたりして、そんなことを考えているうちに今日のライブが始まった。今日はビッグバンドではなく、ピアノトリオ+トランペットという編成である。
ブラスバンド出身で、始めはトロンボーンだったという吉見さん、なんでも昔は三宮界隈のライブハウスに通いつめるうち、なぜかピアニストとして演奏をするようになっていたとか(笑)。2004年には「ポチ」のオリジナル・ビッグバンドを結成、ジャズ熱はさらに熱くなったようだ。そして今年、「ポチ」の開店という運びになったということらしい。ライブハウスをやりたい、という夢の実現でもあるわけだけど、 吉見さんは一歩下がったところからお店やミュージシャンを見ているようで、「遊びやボランティアでなく、ミュージシャンにキチンと仕事をする場を提供したい」さらに「明石をもっと楽しい街にしたい」というのが、夢のもうひとつの側面でもあったようだ。お店に「旦那の義太夫」的な匂いがしないのは、きっとそんな思いが反映されているからだろう。いや、クールですねえ。
さて、妥協がないといえば、それは音ばかりではなくて。 ピッツァやサラダ、揚げギョーザなど、お願いしたフードもドリンク類も、ちゃんとしたホンモノの味わいである。なかでもピッツァは、生地が薄くてパリパリの僕好み。タマネギサラダは早生のタマネギをわざわざ淡路島から取り寄せて…という凝りっぷりである。お酒の品揃えも充実していて、なるほど、お客さんに楽しんでもらうには演奏だけでなく、そのあたりも大事ということでしょうね。
吉見さんや、ポチの店長・中西さんも参加して結成されたオリジナル・ビッグバンドのCD「ポチ・ジャズクラブ」を聴かせていただいた。選曲もビッグバンドものあり、映画ものあり、でジャズだけにとどまらない。 音楽表現とか芸術性とか、あるいはある種の気取りとか。 そんなものはとりあえずおいといて、まっさきに聴こえてきたのは「音楽は楽しい!」というメッセージだ。そしてそれこそが、本当はいちばんの音楽表現なのではないか…、なんてことを考えてしまった。 ま、細かいコトはヌキにして。とりあえずイッパイ飲んで、ピッツァでもつまんで、のんびりゆるゆるライブ聴きましょ。 ジャズは、音楽は、やっぱり楽しいものなんだなあって、きっと思いますから。
あ、そうそう、「ポチ」って名前の由来ですが。 戌年生まれの、吉見さんの子供時代のニックネームだそうです(笑)。