ジャズ探訪記 バックナンバー
●じゃず家
ジャズのゆりかごを抜けて…。
食品の買い物に来る人、洋服を探しに来る人、コンビニに寄る人、パチンコ屋に入る人、もちろんちょいと立ち呑みに…と、いつでもたくさんの人がにぎやかに行き交うJR環状線・天満駅辺り。地下鉄でいうなら堺筋線・扇町駅付近である。梅田や心斎橋みたいな洗練された雰囲気はないにしても、気どりのないこの界隈は僕も大好きな街だ。まあ、どちらかというと、商店街を一筋東に入った辺り、あのアジアの混沌とでもいうべきあたりにばかり、つい足が向いてしまう傾向はあるのだけれども(笑)。
ところが今日は、そっちとは逆の方向に進路をとる。老舗の鮨屋さんとか焼き肉屋さんとかの並ぶ細い通りを抜け、高架沿いに西へ。横断歩道を渡るともうすぐそこに、「じゃず家」さんが見える。日が長くなったとはいうもののドア横のネオンサインは鮮やかで、見落とす心配はないだろう。「高架沿いに…」なんて書いてるけど、じゃず家さんはいわゆる高架下で、道に迷うほうがむずかしいくらいなのだけど。

こんにちわー、とドアを開けると、いかにも清げな明るい山小屋風?という意外な造りである。白木のカウンターが長く伸び、店奥のライブステージにはレンガの壁が見える。ジャズのお店というより、ペンションとかロッジとでも呼びたくなる造りなのだ。迎えてくださったのはオーナーの下家久雄さんとスタッフの吉竹祐子さん。下家さんは60歳ということなんだけど、ジーンズの似合う、じつに若々しい方である。これもひとつの「ジャズ効果」かな?そもそも下家さんは、楽器メーカーにお勤め後にも楽器卸の流通のお仕事をされていたのだとか。音楽好き・ジャズ好きが高じて、もともと倉庫だったこのスペースを見つけてお店を開いてからもう4年になるということだ。

ライブは定休日以外ほぼ毎日。中でもおもしろいのは、毎週火曜日のセッション・デー。
ピアノとベースのプロのミュージシャン(アシストプレイヤーと呼んでいるそうだ)にアシストしてもらいながら、アマチュアプレイヤーがライブ演奏できるという仕組みである。中には70歳くらいの方や、高校生の参加者も…と幅広い。「ライブやりたいなー、でもバンド作るところから始めなきゃいけないし…」なんて思っている人にはまさに渡りに船。それに、ピアノとベースとしっかりしてると他の楽器やボーカルがずいぶんやりやすいのは確かで、アマチュアにとっては強い味方だろうなあ。
そのセッションを支える存在というか、じゃず家では「じゃず家音楽塾」なる音楽教室も併設されている。
趣味でジャズを楽しみたい人向けのレギュラーコースとプロを目指すプロコースがあり、いずれも現役で活躍中のミュージシャンが指導にあたる。プロコースは個人レッスンのみ、いかにも濃い授業が展開されていそうだ。




自家製カレーも含め、フード・ドリンクはすべて!500円のワンコインというオトコマエ価格。下家さんは「まあ、計算もめんどくさくないからね」なんて笑っているのだけど(笑)。
おっとそうそう、じゃず家では楽器の販売もされているのである。新人もベテランも、「新しい楽器を…」というとき、長年楽器と音楽に関わってきた下家さんに相談してみるのはとてもいいんじゃないかな。

当然といえば当然ながら、お話をうかがっている間にも上の高架を電車が通っていく音が聞こえる。いや、これがねえ、雑音かといえば意外にそうでもないんですよねえ。逆に雰囲気があるというか。
「まあ、ニューヨークのビレッジバンガードでも地下鉄の音が聞こえるからねえ、ホラ、あそこはビルの地下だから」とクリスさん。
なるほど、上から聞こえるか下から聞こえるかの違いはあるけど、いかにも都会の音ではある。考えてみれば、ジャズはこんな音の中、こんな街の中で育った音楽でもある(サイト内『クリスのWhat's Jazz?』もご覧くださいね)のだ。

取材を終え、ふたたび駅に向かうころにはさすがに日も暮れている。
あちこちでつき始めたネオンサイン、大通りにはラッシュアワーのクルマの音、電車はたくさんの人を乗せて北へ、あるいは南へと向かう。焼き肉の煙が流れ、早くもゴキゲンな顔を赤く染めたオトーサンやナマ脚もあらわな女のコたち…。
ジャズはこんな雑踏のなかで生まれ、育ったのだなあ…。このワサワサしてる空気こそジャズのゆりかごなのだ。駅付近の雑踏も、「じゃず家」へのちょっと長めのエントランスなのかもしれない、そんなふうにも思えるのでした。

じゃず家
●大阪市北区山崎町1-19
●TEL/FAX:06-6377-1130
取材日:2010.3.16
●http://www.cocosound.jp/jazz_ya/
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