ジャズ探訪記 バックナンバー
WAZZ
ビル地下・ジャズの天井桟敷。
またまた案内役をお願いしたクリスさんと待ち合わせの約束をしたとき、「え、そんなところに?」…ってのが正直なキモチで。
西中島ですよ?新大阪の隣ですよ?ビジネス街のまっただ中ですよ?
そんなところに素敵なジャズのお店があるんですか?大阪の土地鑑がある人なら誰だってそう思うんじゃないかなあ。

「ワシントンホテルのすぐ南側ですからネー」と教わったままに歩いていくと、なるほど、クルマびゅんびゅんの大通りに面しているWAZZはすぐに見つかった。ありゃー、ホントにあるんだなあ。お店の前にはいかにもおいしそうな料理の名前が並ぶ看板が立っている。あれ?でも、ここって、和食のお店じゃないんですか?たしかにライブの様子らしい映像も流れてるけど…。一見、和食の店に見えるけど実はジャズの店?あ、そうか、「WASYOKU」と「JAZZ」でWAZZですか!!なるほどー、「?」から「!」へ、ちょっと納得しつつ地下に続く階段を降りてみる。

え、ホンマですか?
お店の中は広々、天井も高く(…というか、天井の存在を感じない!)、ここがビル地下なんて思えない空間。ダークな色調の木とテーブルの赤い照明のコントラストがなんともシックで美しい。
空間の広がりを感じる理由は、二次元的な面積のせいだけではなくて、三次元的な広がりがあるからだ。オペラハウスを小振りにしたような、あるいは野球場をぐぐっと縮めたような、こんなタテの動きがあるお店は初めてだ。ライブを見るときに「前の人の後頭部が邪魔にならないように」…と工夫した結果ということだけど、いや言うのはカンタン、でもそれを実現するのは容易なことではないはずだ。
その「タテの動き」を要約すると、ざっと3層。
階段を降りてきてまずいちばん最初にあるのがバーカウンターとボックスシート。クリスさんの案内で、僕も当然のような顔をして(笑)このボックスシートに陣取る。一段下がって二人掛けのソファ席が並び、いちばん底にあるのがライブステージとアリーナ席(?)にあたる客席である。
地下っぽくない印象の元は、ここに佇むピアノの姿にもあって。アップライトでないのはまああり得るとしても、なんとこのピアノ、威風堂々フルコンサートのグランドピアノなんである。しかもその横顔には見慣れないロゴ…。えーと、べ、べーぜんどるふぁー?
「そうです。これが、この店の魅力のひとつでもありましてね」とは、このお店のサウンドディレクターでもあるベーシスト・蓑輪裕之さん。(蓑輪さんは、高槻ジャズストリートの実行委員でもあり、クリスさんとも古い「ジャズ友」なんだそうだ)
あんまり聞いたことのない名前のピアノなんですけど…(←僕が知らないだけ?)。
「この店を開く時、ちょうどあるオペラハウスのピアノが入れ替わるという話がありましてね。本当に幸運に、このピアノが手に入ることになったんです。」
おお、オペラハウス出身のピアノですか!!でもピアノというと、ヤマハとかスタインウェイとかって思っちゃうんですけど。
「そうですね。クルマに例えるなら、スタインウェイはメルセデス、ベーゼンドルファーはロールスロイスって感じですか」
おお、それはスゴい!



蓑輪さんによると、他のピアノに比べてメンテナンスの手間はものすごくかかるけど、気軽に動かせる楽器ではないだけにピアノで「店の品格」が決まる部分があるらしい。でも、例えばベーゼンドルファーならいいかというとそういうものでもなく、新しい楽器はまだまだ「鳴らない」。オペラハウスで長年使いこまれ、いい具合に育ったものが手に入ったことは本当にラッキーなことだったのだそうだ。 それだけに、ふつうあまりソロをやらないタイプのピアニストも、このお店での演奏ではソロが多くなるという。いや、お気持ちはわかります。 お店の設計も「まずピアノの音ありき」で進んだらしい。WAZZのオープンは一昨年の12月。それまでに何回も何回もミーティングを繰り返した結果が、ピアノの音を生かす空間作り、柱のない、前の人の後頭部が邪魔にならない客席作りにつながったということだ。
なるほど…。
いや、納得も得心もしてしまう。ほら、最近の映画館とかもそうじゃないですか。小さなハコでも、たいてい段差をつけてスクリーンを観やすくなってますよね。ジャズライブもそんなふうに観られればそのほうが快適にきまっている。
そうそう、快適といえば。
上層に並ぶボックスシートの前には、なにやら黒い、半透明のカーテンがかかっている。コレ、なんですか?
「このカーテン閉めるとね、中からはライブもよく見えるけど、話し声とかは外に漏れにくくて、他のお客さんの邪魔にならないんだよね」とクリスさん。えー、そんなところにまで細かい心遣いが!
しかも、である。
いちおう、WAZZではミュージックチャージとテーブルチャージがついてくる。でもね、これがなんとそれぞれ500円!!通常、両方あわせて1000円なんである(誤植ではありません!)。そして、奥にある二人用のボックスシートでも、他の席でも、値段は同じなんですよ!めっちゃゼイタク~!!

ゼイタクなのは音と席だけじゃなくて。
メニューに並ぶのは正統派の和食。アラカルトもあり、先付けから焼き物・蒸しものを交えたコースもある。
ちょっと眺めてみると、例えば「炙り〆鯖と薬種の黄身ソース掛けクルミオイルの香り」、「横輪・寒鰤・牡丹海老、妻一式」、「伊予産いも豚の胡麻味噌グリル」…。
飲み物も、お酒に焼酎、ワインやカクテルも豊富に揃っている。うっかりしてるとジャズのお店ってことを忘れてしまいそうだ。しかも値段はリーズナブル。おおげさに構えなくても、仕事を終えて、さてイッパイやって…というときに本当に気軽に立ち寄れる感覚だ。
うーん、なんてことだ。関西に住んでいながら、こんなお店を知らなかったなんて。
いつのまにかの常連化も、これはやむなし。

追記:さらにマニアックなトピック。WAZZには、ジミー・スミスやスティーブ・ウィンウッドも愛したあの名機・ハモンドB-3も備えられているということだ。電気の規格が違う日本で、このオルガンをきちんと整備しておくのは想像以上にたいへんなことらしいのだけど…(笑)。

Japanese Dining&Live WAZZ
●大阪市淀川区西中島5-12-12
●TEL:06-6305-0230
取材日:2009.1.9
●http://www.wazz.jp
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