ジャズ探訪記 バックナンバー
茶房Voice
今日のコーヒーは、セピア色に溶けて。
この辺りだから…と教わって出かけた場所は三宮、センタープラザの西館。2階にあがって見回すと、アニメ関係とか古本屋さんとか、けっこうその方面のマニアなお店が並んでいる。ちょっと「ジャズ」な感じではないんだけど…え?こんなところにジャズ喫茶?って感じで、茶房Voiceの扉が見えてくる。
木目も暖かい木のレリーフで作られた看板にレンガをあしらった壁。ゆったりしつらえられたカウンター、大きくとられた窓からは明るい光、もちろんコーヒーのいい香りも漂っていて。故・池波正太郎さんなら、きっと「小体で、いかにも清げな…」と書きそうな佇まいのお店だ。いや、こういう空間ってやっーぱり落ち着きますね。いつのまにか「喫茶店」じゃなくて「カフェ」なんて呼び方がアタリマエになってきたこのごろではあるけど、Voiceはいかにも「喫茶店」というスタイル。こんなお店が近くにある人は幸せである。
さて、そんなくつろいだ雰囲気の中お話をうかがったのは、笑顔も爽やかな村田太さん。まだ29歳という若さのわりには渋い趣味…と思っていたら、村田さんはいうなれば2代目さんで、カウンターでにこやかにコーヒーを入れてくださる長身の紳士がお父様なのだそうだ。
ジャズ好きもお父様からの影響で、きっと幼少の頃から太さんもジャズ漬けの生活を…と思いきや、昔は「ジャズみたいな、インドアな趣味は大嫌いでした。お客さんにもいじめられますし」と、いきなり予想を裏切るお答え(笑)。
そもそもVoiceはジャズ喫茶ではなくって、フツーの喫茶店としてスタートしたのだとか。ところが「だんだんレコードが増えてきてしまって…。」ってことで、なかば倉庫みたいな形でお店にレコードを置くようになり、まあ当然それをかけるようになり、そんなこんなでジャズ喫茶になってしまったのだそうだ。
(そういえば、コーヒーもローストの深い感じのしっかりした味わい。クラシックでスタンダードな「喫茶店」の味だ。こんなコーヒーが飲めるお店も少なくなってしまいましたね)




レコードの数はざっと6000枚。え?どこにそんな数のレコードが…?とお聞きすると、カウンターを回り込んだお店の奥、入り口近くからは見えないところにありました!ぎーっしりとLPレコードが並んだ棚が!これ見よがしに飾ってないあたりがいいですねえ、実に奥ゆかしいというか(笑)。
50年代のジャズを中心に、シナトラとかペリー・コモなんてところもかかるらしい。レコードは、気分とかなりゆきとかではなく、かなり計画的に選ぶそうだ。
「いろんな変化を持たせて、その上でなるべくクセのない選曲にしています」と村田さん。
毎日通って、開店から閉店までずっとコーヒー飲んでるとすると(笑)一年でだいたい2000枚から3000枚のレコードを聴けることになるそうだ。
ふーむ、村田さん、かなりの理論派と見ました。
じつは村田さん、お店だけでなく、プロデューサー的な活動も精力的になさっているんである。ジャズ関係のいろんなイベントも企画・開催してこられたとのこと。あのハンク・ジョーンズを招聘したこともあるそうだ。
この取材の少し前にも、ピアノとベースだけという組み合わせでのレコーディングを終えたところなのだそうで、「これが聴きたい!という音源がないから、じゃあ作りましょうということでやってるんです」
にこやかに語る村田さんだけど、かなりミュージシャン好みというか玄人好みというか…、マニアなコンセプトのレコーディングもあるようで話の種はつきない。村田さんにとってのジャズは、いつまでも楽しめるオモチャのようなものなのだろう。
その楽しさと明るさは、 このお店の空気によく似合っている。
さてVoiceのお隣は、真空管アンプがディスプレイされたえらくアンティークなオーディオショップなんである。
たくさんのLPレコードがぎっしりで、こりゃまたお似合いのお店が並んだもんだなあ…と思っていると、こちらは村田さんのお父様のお店なのだとか。古いオーディオを修理(!)したりしているうちになんとなくお店になってしまったという、こちらはお父様の「オモチャ箱ですわ(笑)」。
ふと見ると、カウンターの上には古い古いレコードプレーヤーが鎮座している。お話をうかがっている間に持ち込まれたものらしいけど、「どこに置くねん!」と太さんのツッコミを受けながらもお父様はニコニコである。いや、お気持ちはわかります。
 
真空管アンプの柔らかい音と、ちょっと古めのジャズ。
新しい音楽やオーディオが劣っているわけではもちろんないけれど、アットホームで、ちょっとクラシックな感じがなんとも心地よい。
なんというか…、カップボードも飾られたレコードジャケットも、こころもちセピア色に溶けあっているけど、空気の底がはんなり光っているとでもいうか。
音楽もコーヒーも、いいものだけを静かに提供してくれる。
茶房Voiceはそんなお店である。
茶房Voice
●神戸市中央区三宮町2丁目11番 三宮センタープラザ西館2F
●TEL:078-334-3668
取材日:2008.06.09
●http://www.jazz-voice.biz  
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