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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.132
Jazzと喫茶・囃子 はやし

『マサコ』の精神を受け継ぐフォトジェニックなジャズ・カフェ
@東京・下北沢

下北沢といえば、住宅街でありながらユニークで洒落た飲食店や雑貨店・古着屋などが軒を連ね、サブカルチャーの薫りゆたかな楽しい街として人気が高い。
『Jazzと喫茶・囃子 はやし』は、2017年1月、南口から線路脇の路地を入ったビルの3階にオープン。レトロとモダンが同居するインテリア、居心地の良さそうなカウンター、キレイで美味しそうな新作スイーツなど、SNSで見るお店の様子は、まさに“インスタ映え”する下北カフェそのもの。それがジャズ喫茶だというんだから、興味しんしんです!
「ジャズ喫茶、ではなく、ジャズと喫茶ということで逃げ道をつくっているのかも」と笑うのは店主の林 美樹さん。意志の強さを感じる大きな瞳が印象的。林さんがわざわざこうおっしゃるのにはワケがある。
林さんは2009年に惜しまれつつ閉店した老舗ジャズ喫茶『マサコ』のスタッフだった経歴がある。あれっ、この話、以前もどこかで?と思ったアナタ、そうなんです。vol.126 Juha(ユハ)オーナーの奥様・ゆみさんも『マサコ』出身、おふたりは元同僚同士なのでした。

『マサコ』のようなジャズ喫茶を期待して来られる方には申し分けないけど、ジャズに詳しくなくても、多くの方に気軽にいらして欲しい、という気持ちから『ジャズと喫茶』にしたのだそう。
「『マサコ』ではレコードコレクションから、そのお人柄が伝わってくるようでした。‘60〜’70年代のフリージャズもあればスウィング、フュージョン、スピリチュアル系なものまでと広範囲です。そのジャンルにとらわれない自由な感覚を受け継ぎながら、自分がいいと思うもの、ジャズを感じる今の音を取り入れていければ」と林さん。
音楽はレコード中心。もちろん会話もOK。昼はコーヒーと音楽を楽しみに来店されるお客さまを中心に、夜はお酒をのみながらおしゃべりしたり、またひとりで来た方同士で話が弾んだりと、その時々の顔ぶれにあわせて音量と選曲を調整している。
「昨日の午後のお客さまは4組ともカップルの方。ドン・チェリーの予定でしたが、急遽別のものに変更したり(笑)。また、夜の時間帯でちょっと上の世代の方が多かった時、『YMO』を挟んでみたらかなり好評だったこともありました。でもなかには『話が聞こえないので音量を下げて欲しい』とお願いされる方も。その場合、お客さまのご要望にはなるべくお応えしますが、このお店があくまで“音楽を楽しむための場所”であることはそのつど控えめにお伝えしています」。
ナルホド。“Jazzと喫茶”の店主としては、そんな舵取りの手腕が必要なんですねえ。

お店の奥、窓に沿った細長いテーブルのあるスペースは、手前の足を外すと小さなステージになるように設計されている。2ヶ月に一度、このスペースにDJさんを招き、ターンテーブルを置いて“JazzとDJ”を開催しているという。またバイオリンやギター、打楽器、管楽器や歌などによるアコースティック・ライブも行い、貸し切りパーティにも出演する。実は林さんもかつてアコーディオンやキーボードを演奏していた。オープン時に音楽仲間がプレゼントしてくれたレプリカのアコーディオンがJBLの上にそっと飾られている。
今もご自身がライブに足を運び、いいと思うものをセレクションに加えるという彼女イチ推しのバンドが、『民謡クルセイダーズ』だ。民謡とワールドミュージックが融合し、あのピーター・バラカン氏も絶賛する。その一方で好きなミュージシャンはオーネット・コールマンだと答える林さん。『マサコ的』ってもしやこういうこと?
「下北沢周辺に暮らすようになって20年。お店は地元の友人や顔なじみの方々に支えられています。何がかかっても『けしからん!』とならない音楽好きの方が集まる場所にしたいですね。そして“下北をいい町にしていきたい”という想いもあります。若い世代がちょっぴり背伸びし、人目を気にせず好きなことを貫くパワーに対し、大人がちゃんと肯定してくれるような、これからもそんな町であってほしいんです」。
開店まであと15分。「そろそろいいかな」と待ちきれずに入ってくるお客さまであっという間に席が埋まった。おやっ、その中にはさっきお土産のお菓子を届けてくれたビルの大家さんの姿まで!みんなまったり、なんだか幸せそう〜。
下北沢は近年の駅前再開発や複々線化工事などによって、日々大きく変わりつつある。
でも、どんなに町が様変わりしようとも、いい音楽はどこにあるのか、心安らぐ楽しい時間はどうすれば手に入るのか、案外みんな知っているのかもしれないなァ。
そんな暖かな気持ちになってお店を後にした。