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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.130
Jazz Nutty

ナッティで本物の音を聴け!
@東京・早稲田

都の西北、早稲田大学・大隈講堂から歩くこと約5分。
入り口には、レコードが張られたオシャレな“珈琲”の立て看板と銅製のネームプレート。そしてなんといっても“ミュージシャンの魂を聴きとれ!”と書かれた木製の営業案内が人目を引く。ここが今日ご紹介するジャズ喫茶『JAZZ NUTTY』だ。
ドアを開けると店内は間口から想像するより広くて明るい。ヴィンテージ家具のような存在感を放つJBLスピーカー。壁に沿ったつくり付けのベンチシートは見るからに居心地がよさそう。すっきりしたこの空間で、みんな壁にもたれてまったりと音楽を楽しむんだろうなァ。いいな〜。
「こんにちは〜」突き当たりの厨房兼オーディオルームから現れたのは、オーナーの青木一郎さん。入り口の勇ましいコピーとは正反対の、おっとり優しい語り口が印象的。かつて蒲田で四半世紀にわたり『サッチモ・フラワー』というお花屋さんを営業されていたというから、なんとなくナットク?がいくような。

再開発による立ち退きを期に心機一転、2008年にこの早稲田の地にジャズ喫茶をオープンしたのだという。NUTTYはセロニアス・モンクの曲名で“イカれてる”といった意味もあるそう。
「大学時代からかれこれ40年近くジャズを聴いているのでCDもレコードも溜まっていました。僕がジャズ喫茶を始めると知って、持っていたレコードを譲ってくれた方も。おかげで自分の好みだけではなく、バランスよく揃っています」。
場所柄、お客さまはやはり早稲田の学生さんが中心なのでしょうか。みなさんどんな音楽を聴いているのかな。
「授業のある期間は、教授も学生さんも多いですね。ジャズ研の方をはじめ、近頃はハイソ(早稲田大学のビッグバンド、ハイソサエティ・オーケストラの通称)の子たちも来てくれます。イヤホンで音楽を聴くことの多い部員に、先輩たちが『ナッティで本物の音を聴いてこい!』とここへ来ることを奨励してくれるらしい(笑)。ありがたいですよね。学生さんは意外に“古典”を真面目に聴いているかな。また自分のCDを持ち込むことも。僕自身も新譜や知らないアーティストの作品は聴いてみたいですしね。一方土日は、社会人の方が中心です。中には埼玉や千葉など、遠方からわざわざ来てくださるお客さまもいます。ここでの時間だけでなく、行き帰りの時間も使ってきてくださると思うと、本当にお好きなものを聴かせてあげたい。楽しかった、パワーをもらった、といわれる時は嬉しいですね」。

青木さんは、一人ひとりのお客さまの好みの曲やリクエストした曲など、大学ノートにすべて書き留めている。好みは千差万別、また青木さんのセレクトを楽しみにくる方など、ノートと顔ぶれを見ながら選曲しているのだそう。いやいや、やっぱすごいですねえ。青木さんは長い間ジャズを聴いてきて、この音楽に対してどんなことを思っていらっしゃるんだろうか。
「モンクとエリントンの重要性は伝えていきたいですね。それは僕が好きだから、というレベルではなく、世界中のミュージシャンが彼らの音楽を“核”として研究を重ね、発展させてきました。ジャズという音楽の可能性はこの二人がいなかったらここまで広がらなかったでしょう。そこをたどって聴いてみて欲しい。なので僕のチョイスの中にちょっとずつ入れています。ミュージシャンの技術レベルは格段に進歩しているけれど、僕にとっては感動する新譜にはなかなか出会えないんです。過去のレジェンドの演奏のほうがまだまだ新鮮なアイデアの発見があるし、精神の高さを感じます」と青木さん。
CDを取り上げてかけてくれたのは、『極東組曲』。エキゾチックで妖しいエリントンの世界がたちまち店いっぱいに充満し、大迫力の重低音がズシンズシンと心臓に迫ってくる。
「僕がめざしているのは“昔ながらの”ジャズ喫茶。ここにきたら、じっくり音楽を聴いて欲しいですね。そんな気持ちから『会話はご遠慮いただいてます』とドアに張り紙をしています。ビールを除く飲み物500円均一、というのもまあキツいんですが(笑)、お昼も節約しておにぎりをほおばりながら来てくれる学生さんのためにも、もう少しこのままがんばってみようかな、と」。
いちばん目立つ壁面には、1958年のエスクァイア誌に掲載されたハーレムでの集合写真が飾られている。モンク、ベイシー、ガレスビー、ロリンズ、ミンガス、ブレイキー、ジェリー・マリガンにレスター・ヤング、ホレス・シルバー、コールマン・ホーキンスといった大勢の巨星が、カメラを前にそれぞれポーズを取っている。
青木さんの肩越しで、その顔ぶれがいっそう輝いているように見えた。